ART TRACE PRESS05に寄稿
6月28日に発刊される『ART TRACE PRESS05』誌に、書評「書物の軍事的編成『写真の理論』」と展評「溶け出すピクセル ucnv「二個の者がsame space ヲoccupy スル」」を寄稿しています。ART TRACEのwebサイトでは予約受付も開始されています。
永瀬の書評は、『写真の理論』(月曜社、2017年)に見られる、編・訳者(甲斐義明氏)の戦略的思考に注目しました。一般にアンソロジーというものは個々に独立した論考をある見通しをもってパッケージされていますが、『写真の理論』では、テキスト相互の関係がより緊密に組織だっています。編・訳の、主に「編」を取り上げて論じてみました。併せて「ヴァナキュラー・インスタレーション」や、国内の批評的あるいは理論的アンソロジーの不足などにも批判的に言及しています。
また、展評「溶け出すピクセル ucnv「二個の者がsame space ヲoccupy スル」」では、古書店で開催されたucnv氏による映像インスタレーションを取り上げました。展示の形式と展示環境、さらにその意味内容までが有機的に組み立てられた展覧会だったわけですが、まさか去年の秋に書いたレビューが今年の6月末に刊行となるとも思わなかった(それを言うなら書評は去年の春に書いているんですが)。ややタイミングがずれていますが、それでも世に問う意味があると考えそのまま掲載となりました。この展示、けっこう危ないところにも踏み込んでいるので、そのことが示す意味は指摘したかった、ということです。
雑誌全体は、相変わらず、少々息苦しいのではないかというほど充実した紙面になっています。僕は寄稿のほかに編集協力として参画していますが、すこし裏話をすれば、今回はとにかく「紙のゲラのやりとり」が多い校正・編集作業でした。昨今はワード文書の作成からInDesignでのエディトリアルデザイン、PDFでの校正と、すべてデジタル上=モニタ上で作業が進行しがちですが、僕の担当個所では、かなりのゲラを紙面に出力し、それを郵送して、返送されてきたものをデータに反映し、また出力して確認、みたいなサイクルでした。
郵便局レターパックライトを多用したのですが、こちら、大変お安い(360円)。同じゲラを宅急便で送ると急に800円とかしてしまいますので、レターパックライト最強、という感じです。かつて批評誌界隈で多用されたクロネコメール便の廃止の顛末などをみると、郵送配送の法的規制のゆがみも感じますが、とりあえず価格競争力は無視できません。今、書籍の世界では取次業界の再編やルールの変更などで大変動がおきていますが、校正段階のみならず、完成した雑誌を読者の手に届けるまでの流通・配送プロセスに関心をもつことは、批評の書き手も十分に意識的であるべきことだと思います。下手なロジックやタームを振り回すより「流通」「配送」に注目することの方が、遥かに「クリティカル」(語の広い意味で)だと感じています。
いずれにせよ、久しぶりに直筆の「赤字」と取り組む作業に新鮮味がありました。刊行イベントも企画されていますので、関心ある方はぜひチェックしてみてください。